赤かび病にかかった麦の子実は稔実が悪く、白く干からびたようなくず麦になりやすくなります。

以上のことから、良質な麦を生産するためには赤かび病の防除を徹底する必要があります。
胞子飛散に注意する3つの気象条件
赤かび病菌の胞子には飛散しやすい条件があります。
①日最低気温が10℃以上
②日最高気温が15℃以上
③降雨日とその翌日、または湿度80%以上の日
これら3つの条件が揃った気象状況になると赤かび病菌の胞子が多く飛散します。
適期の防除が重要!
麦類には赤かび病に感染しやすい時期があります。
●小麦、六条大麦は開花から10日間程度
●二条大麦は穂ぞろい期の10日後頃
この感染しやすい時期に降雨が続き、気温が高く推移する(=上記①②③の条件が揃う)と赤かび病菌の胞子飛散量が多くなるので、本病の発生が増加します。
茨城県の麦作では、麦類が感染しやすい時期に赤かび病菌の胞子が飛散することは避けられません。このため、赤かび病の防除を適期に行うことがとても重要となります。
圃場ごとの出穂状況を確認
麦類赤かび病の防除適期は、麦種によって異なります(図)。
●小麦では出穂期の7~10日後頃
●六条大麦では出穂期の3日後頃
●二条大麦では出穂期の12~14日後頃
「出穂期」は防除適期の目安となるため、その時期をよく把握することが重要です。
出穂期、防除適期は麦種や播種期により大きく異なります。同じ品種でも、その年の気候等により出穂期が例年より早まったり遅くなったりします。赤かび病の防除を適期に行うため、圃場ごとに出穂状況を確認するようにしましょう。

令和4年の麦類赤かび病の発生状況
病害虫防除部では、3~6月に麦類赤かび病の発生状況について調査を行っています。
令和4年の麦類赤かび病の発生状況は、小麦では6月上旬の発病穂率が平年値を大きく上回り、平成24年から令和4年までで最も高い値となりました。二条大麦、六条大麦もそれぞれ発病穂率が2位と高い値となりました(表1)。
麦種 | 発病穂率(%) | 発生地点率(%) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
令和4年 | 平年値1) | 順位2) | 令和4年 | 平年値1) | 順位2) | |
小麦 | 3.15 | 0.47 | 1 | 91 | 31 | 1-2 |
二条大麦 | 0.37 | 0.76 | 2 | 40 | 22 | 3 |
六条大麦 | 1.19 | 0.55 | 2 | 86 | 22 | 1 |
【調査時期】小麦:6月 二条大麦、六条大麦:5月
1)平年値:平成24年~令和3年の平均値
2)順位:令和4年を含む過去11年間における令和4年の順位(1-2は1位~2位まで同じ数値であることを示す)
令和4年の気温、降雨の状況をみると、県内の多くの地点で5月中・下旬に赤かび病菌の胞子飛散好適日が連続して出現していました(表2)。この様に、1回目の防除の後も降雨が続き、かつ気温が20℃以上になる等、感染好適条件が続くことが見込まれる場合は、1回目の7~10日後に2回目の薬剤散布を行ってください。
アメダス地点 | 10日 | 11日 | 12日 | 13日 | 14日 | 15日 | 16日 | 17日 | 18日 | 19日 | 20日 | 21日 | 22日 | 23日 | 24日 | 25日 |
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日立 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |||||||
常陸大宮 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||||
水戸 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||
笠間 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||||
鉾田 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||
土浦 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |||||||
龍ヶ崎 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |||||
つくば | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |||||||
下館 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |||||||
下妻 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||
古河 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
●:子のう胞子の飛散好適日(日最低気温10℃以上、日最高気温15℃以上、降雨日とその翌日)
その他の防除対策と被害粒を混入させないために
赤かび病の防除対策として、薬剤散布による防除の他に次のことも注意してください。
●倒伏しないような肥培管理を行いましょう
倒伏するとその部分が多湿条件となり、感染が広がるおそれがあります。
●適期収穫を心がけましょう
収穫が遅れると、被害粒から健全粒へと感染が広がるおそれがあります。
●収穫後は時間をおかずに適切に乾燥・調製しましょう
含水率の高い麦を収穫した場合、すぐに乾燥を始めないと、袋の中で赤かび病菌がまん延するおそれがあります。
また、赤かび病の被害粒は稔実が悪く、多くがくず麦になります。ふるい目2.4㎜以上のグレーダーで選別を行い、被害粒の混入率を下げることも重要です。
病害虫防除部では、麦類の栽培期間中、病害虫の発生状況について「病害虫発生予報」に掲載しています。また、例年4月初旬にその年の赤かび病の防除適期について「病害虫速報(注)」を発表しており、これらは病害虫防除所のホームページでもご覧いただけます。病害虫防除所が提供する情報も有効に活用し、良質な麦づくりに役立ててください。
(注)病害虫速報:毎月発表する病害虫発生予報の他に、早急に防除対策を講じる必要があると予測される場合等に発表するもの。麦類赤かび病は重要な病害なので、例年速報を発表しています。
農薬使用時の注意
記事の作成にあたっては、農薬使用基準の内容について細心の注意をはらっていますが、農薬を使用する方は必ず、使用する前にはラベルを見て、対象作物、希釈倍数や使用量、使用時期、使用回数等を確認し、農薬の誤った使用を行わないようにしてください。