カラスムギは1個体あたり100粒以上の種子を生みます。成熟直後の種子は休眠状態にありますが、休眠の程度は圃場によって異なります。休眠が深い種子が多い圃場は年明け以降も長期にわたり出芽が続く傾向があります。また、カラスムギは土中10~20cmの深さから出芽可能です。多くの畑雑草の出芽深度は5cm程度であり、かなり深い位置からでも出芽可能なことがわかります。このことが、前述の「長期にわたり出芽が続く傾向」と相まって除草剤を効きづらくしています。なお、作土層(土中5~15cm程度)におけるカラスムギ種子の生存年数は2年程度と考えられます。
カラスムギ発生程度「少~中」圃場では除草剤で対策
カラスムギ発生面積割合が50%未満の圃場(写真1)では、除草剤2剤体系処理を軸に防除を行います。
●除草剤の体系処理による防除
カラスムギの出芽ピークは11月と12月(最大)、圃場によってはさらに3月と、年2~3回あります。種子の休眠程度によりますが、年内に総出芽数の60%以上が出芽するため、特に年内の除草効果を切らさない体系処理が必要となります。また、カラスムギに有効な成分でも、1葉期以降は効果を期待できないため、散布適期を逃さないことが重要です。所内試験において、1回目を小麦の播種後出芽前(カラスムギ発生前)に、その10日後、2回目を小麦の出芽期(カラスムギ最大葉齢1葉期)に処理した体系処理区①もしくは体系処理区②によって、小麦成熟期におけるカラスムギ残草量は無除草区比10%以下に低減できました(表)。
ただし、圃場によっては3月頃にも新たな出芽が多い場合もあるので、圃場をよく観察のうえ3回目の除草剤処理を行います。
1回目 | 2回目 | 2022年6月9日調査 (小麦成熟期頃) |
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2021年11月16日 (播種後1日) |
2021年11月26日 (播種後11日) |
カラスムギ 残草量 (gDW/㎡) |
同左 無除草区比 (%) |
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小麦葉齢 | 播種後出芽前 | 出芽期 | ||
カラスムギ葉齢 | 発生前 | 最大葉齢1葉期 | ||
体系処理区① | シナジオ1) | リベレーター2) | 3.7 | 5.8 |
体系処理区② | リベレーター | トレファノサイド3) | 6.1 | 9.7 |
慣行区 | ボクサー | – | 19.8 | 31.2 |
無除草区 | 無処理 | 無処理 | 63.3 | 100 |
1)シナジオ乳剤
2)リベレーターフロアブル
3)トレファノサイド乳剤
使用薬量は登録の範囲内で最大薬量とした。散布液量は100L/10a
カラスムギ発生程度「多~甚」圃場では休耕(作目転換)および耕うんで対策
カラスムギ発生面積割合が50%以上の圃場(写真2)では、麦作を継続しながらカラスムギを減らすのは極めて困難であり、新たなカラスムギ種子の生産をストップさせるために休耕せざるを得ません。所内試験において、小麦を一作休耕し、休耕期間中の12月、3月、6月に耕うんを行った後、再び作付けした区の小麦成熟期におけるカラスムギ残草量は、小麦連作区比1.7%と大幅に低減しました(写真3)。
なお、生産現場では麦を休耕し、バレイショやカンショに作目転換して翌作のカラスムギ発生量を大幅に減らしている事例もあります。
防除技術マニュアルの活用
茨城県農業総合センター農業研究所では、今回紹介した技術の他、プラウ耕、収穫物の調製、不耕起管理などの各種技術についても有効性を確認し、効果およびコストとともに掲載したカラスムギ防除技術マニュアル「麦圃場におけるカラスムギの防除技術Ver.1」をホームページ上で公開しています。生産現場で実施可能な防除技術をできるだけ組み合わせることで効果を上乗せし、カラスムギ対策に取り組んでいただきたいと思います。
なお、本マニュアルでは手取り除草を扱っていませんが、徹底防除には手取り除草が不可欠です。手取り除草の際は、カラスムギの脱粒が始まる出穂5週目までに実施し圃場外に持ち出して処分することで、翌年の発生源を圃場に残さず防除できると考えられます。