本県における「にじのきらめき」の作付面積は増加していることから、収量と品質を安定的に確保できる栽培管理方法を確立しました。目標値は、収量660kg/10a、玄米粗タンパク含量6.5%以下、千粒重23.5g、検査等級1等としました。
栽培に適した条件の解明
本試験では、「にじのきらめき」に適した移植時期や栽植密度、基肥追肥体系における基肥窒素量、追肥時期、収穫適期を明らかにしました。試験地は、当研究所内の試験圃場(水戸市、龍ケ崎市)と現地水田(筑西市)で、水戸市の圃場は表層腐植質多湿黒ボク土、龍ケ崎市の圃場は中粒質普通灰色低地土、筑西市の圃場は細粒質泥炭質グライ低地土です。
所内圃場(水戸・龍ケ崎)の試験区では、移植時期は4月下旬・5月中旬・6月上旬、栽植密度は坪40株・坪50株・坪60株、基肥窒素量は3~15kg/10a、追肥時期は出穂前30日~出穂期としました。現地水田(筑西市)の試験区では、移植時期は5月上旬、栽植密度は坪50株、基肥窒素量は3~9kg/10a、追肥時期は出穂前25日としました。すべての試験区で、追肥窒素量3kg/10aを施用しました。
●移植時期は5月上旬~中旬
4月下旬移植および5月中旬移植は、6月上旬移植よりも1~2割多収になりました。加えて5月中旬移植は、検査等級がおおむね1等であり、千粒重は他の移植時期と比較して最も重くなりました。
一方で、4月下旬移植は5月中旬移植と比較して検査等級が低下する傾向があり、全移植時期の中で最も千粒重が軽い結果となりました(表1)。このため、本品種に適した移植時期は5月上旬~5月中旬となります。
試験場所 | 移植時期 | 出穂期 (月/日) |
成熟期 (月/日) |
稈長 (cm) |
穂長 (cm) |
穂数 (本/m2) |
倒伏程度1) | 精玄米重2)3) (kg/10a) |
千粒重3) (g) |
籾数 (百粒/m2) |
登熟歩合3) (%) |
タンパク含量 (%) |
検査等級 (等) |
登熟日数 (日) |
登熟積算気温4) (℃) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
水戸(所内) | 4月下旬 | 7/24 | 9/6 | 71.5 | 21.1 | 450 | 0.0 | 787±73 | 23.4 | 391 | 86.4 | 5.9 | 1.0 | 44 | 1143 |
5月中旬 | 7/31 | 9/14 | 73.1 | 20.9 | 437 | 0.0 | 752±45 | 24.6 | 343 | 85.0 | 6.3 | 1.0 | 45 | 1148 | |
6月上旬 | 8/12 | 9/27 | 79.1 | 19.8 | 428 | 0.5 | 688±76 | 23.8 | 345 | 79.4 | 6.6 | 1.0 | 46 | 1105 | |
(参考)コシヒカリ | 7/28 | 9/9 | 92.7 | 21.1 | 415 | 2.8 | 685±30 | 23.1 | 367 | 82.9 | 6.7 | 1.7 | 43 | 1131 | |
龍ケ崎(所内) | 4月下旬 | 7/22 | 9/4 | 72.2 | 20.8 | 478 | 0.0 | 759±32 | 22.7 | 407 | 87.0 | 6.1 | 1.7 | 44 | 1163 |
5月中旬 | 7/28 | 9/12 | 73.4 | 20.3 | 475 | 0.0 | 715±27 | 23.8 | 370 | 82.8 | 6.2 | 1.2 | 46 | 1213 | |
6月上旬 | 8/9 | 9/27 | 75.6 | 19.3 | 395 | 0.0 | 590±86 | 22.9 | 328 | 76.7 | 6.4 | 1.3 | 49 | 1236 | (参考)コシヒカリ | 7/25 | 9/6 | 95.6 | 18.8 | 460 | 2.6 | 589±33 | 21.1 | 349 | 81.7 | 6.7 | 2.7 | 43 | 1153 |
※R3~5の平均値、栽植密度:坪50株、基肥窒素量:9kgN/10a(「コシヒカリ」では6kgN/10a)追肥窒素量:
3kgN/10a、追肥時期:出穂前25日頃・幼穂長1mm(「コシヒカリ」では出穂前15日頃・幼穂長30mm)
1)0~5の6段階評価 2)平均値±標準偏差 3)1.85mm調製後の値 4)出穂期~成熟期前日のアメダス(水戸・龍ケ崎)の日平均気温の積算値
●栽植密度は坪50株
栽植密度が坪50株および坪60株では、坪40株よりも多収となる傾向があります。しかし、品質は大差ないことから、本品種には坪50株(15本/㎡:条間30㎝、株間22㎝)が適します(データ略)。
●基肥追肥体系における基肥窒素量は「コシヒカリ」の1.6倍に増肥
基肥窒素量が増加するほど、稈長が長く、穂数が多い傾向があります。基肥窒素量を増やしても、倒伏程度は0~1であり、倒伏はほぼ見られませんでした。「コシヒカリ」慣行栽培に対して、1.5~2倍に増肥した基肥窒素量(所内:9~12kg/10a)では、収量水準が高く、千粒重が23.6g以上、玄米粗タンパク含量がおおむね6.5%以下、検査等級がおおむね1等であることから、目標値を達成できる条件であると考えます(表2)。
年次 |
基肥窒素量 (kgN/10a) |
稈長 (cm) |
穂長 (cm) |
穂数 (本/m2) |
倒伏程度1) | (kg/10a) |
(g) |
籾数 |
登熟歩合2) (%) |
玄米粗タンパク含量 (%) |
検査等級 (等) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
水戸(所内) R3-5 |
3 | 68.1 | 21.8 | 359 | 0.0 | 670 | 24.3 | 318 | 84.3 | 6.0 | 1.0 |
6 | 71.2 | 21.3 | 394 | 0.0 | 724 | 24.6 | 324 | 86.2 | 6.1 | 1.0 | |
9 | 73.1 | 20.9 | 437 | 0.0 | 752 | 24.6 | 343 | 85.0 | 6.3 | 1.0 | |
12 | 76.4 | 20.5 | 457 | 0.5 | 764 | 23.9 | 371 | 85.2 | 6.6 | 1.0 | |
15 | 79.5 | 19.9 | 545 | 1.0 | 633 | 23.1 | 410 | 84.4 | 6.8 | 1.0 | |
龍ケ崎(所内) R4-5 |
3 | 67.4 | 20.4 | 369 | 0.0 | 553 | 23.9 | 286 | 83.0 | 5.8 | 1.3 |
6 | 71.0 | 20.3 | 441 | 0.0 | 662 | 24.2 | 330 | 84.9 | 5.9 | 1.3 | |
9 | 73.4 | 20.3 | 475 | 0.0 | 715 | 23.8 | 370 | 82.8 | 6.2 | 1.2 | |
12 | 79.1 | 19.5 | 504 | 0.2 | 742 | 23.6 | 400 | 80.5 | 6.5 | 1.0 | |
15 | 78.2 | 19.2 | 550 | 0.0 | 698 | 23.2 | 427 | 80.0 | 6.7 | 1.0 | |
筑西市(現地) R5 |
3 | 69.9 | 20.8 | 345 | 0.0 | 666 | 23.7 | 359 | 89.4 | 5.9 | 1.0 |
6 | 72.2 | 21.0 | 378 | 0.0 | 669 | 23.8 | 351 | 88.6 | 5.9 | 1.0 | |
9 | 71.3 | 22.3 | 424 | 0.0 | 713 | 24.1 | 402 | 84.5 | 6.5 | 1.0 |
※移植時期:5月中旬(所内)・5月上旬(現地)、栽植密度:坪50株、追肥窒素量:3kgN/10a、
追肥時期:出穂前25日頃
1)0~5の6段階評価、2)1.85mm調製後の値
図1の回帰式より、最も多く収量を得ることができる条件は、基肥窒素量10kgN/10aであり、「コシヒカリ」慣行栽培に対して1.6倍に増肥した水準に相当します。玄米粗タンパク含量の回帰式より、基肥窒素量10kg/10aにおける玄米粗タンパク含量は6.4%です。
表2の所内データを基に作成
●基肥追肥体系における追肥時期は出穂前25~15日
基肥追肥体系において、出穂前30~15日での追肥は、出穂前10日~出穂期の追肥よりも多収になります(図2)。
千粒重は、出穂前30日の23.0~23.9gと比較し、出穂前25~15日では23.7~24.5gと重くなります(データ略)。そのため、追肥は出穂前25~15日が適します。
水戸:R3~5、
龍ケ崎:R4~5
基肥:9kg/10a、追肥:3kg/10a
●収穫適期は帯緑籾率10%を目安に
帯緑籾率10%を目安として判定した登熟日数は46日(44~49日)であり、「コシヒカリ」より4~5日程度長くかかります。登熟積算気温は1169℃(1105~1236℃)になります(表1)。収穫時期が遅れた場合、胴割粒やその他被害粒(いわゆるヤケ粒)の増加による品質の低下が懸念されるため、適期に収穫するとよいでしょう。
収量と品質向上のために
「にじのきらめき」に適した移植時期、栽植密度、基肥窒素量、追肥時期、収穫適期を明らかにしたことから、収量および品質の向上に寄与できると考えます。本県では「にじのきらめき」は令和6年度に奨励品種に採用しています。本結果は「にじのきらめき」の栽培暦にも記載したため、ご活用いただければ幸いです。
残された課題である生育指標に基づく追肥量の適正化、追肥の分施による高品質かつ多収となる条件や高温障害の軽減効果の解明については、令和6年度からの試験内容で取り組んでまいります。