近年は水稲作においても経営規模が拡大し、圃場管理をより効率的に行う必要性が高まっていますが、雑草イネの発生が県内各地で確認されており、効果的な防除方法の確立が改めて必要となっています。雑草イネは種子が穂から落ちやすく、圃場内にまん延しやすいという特徴があります。また、多くは赤米であるため、収穫物に混入すると検査等級の低下を招きます。
そこで、遺伝的多様性を持つ県内各地の雑草イネの出芽時期の特徴を明らかにし、これに対応した有効な防除技術を確立しました。
雑草イネとその問題となる特徴
雑草イネが発生しているかどうか、注意深く水田内や生産物を観察してみてください。
田植えから1か月くらい経った頃、圃場をよく見てみると、移植した水稲の畝間や株間に雑草イネが発生しているのを見つけることがあります(写真1)。
出穂後の収穫より少し前のころ、周囲の穂と少し様子が違う穂を見つけることがあります。例えばノゲが長かったり、赤かったり、穂が色づいて垂れる時期なのに、籾が脱粒して穂軸が立っていたりというものが雑草イネのよくある特徴です。写真2のように、雑草イネは種子が離脱しやすい性質(脱粒性)を持っています。雑草イネは、出穂後2週間以上経った穂を手で握ると、籾がポロポロと落ちます(写真2)。
さらに生産物をよく確認してみてください。玄米の色が明らかに違うものが混ざっていることがあります。写真3のように、玄米そのものは病害虫による被害は受けておらず、栽培したイネとは明らかに違う色の玄米(赤米)が混ざります。これは、検査等級の低下を招きます。
雑草イネの特性とそれに対する具体的な対処方法
茨城県内で多くの発生を認めている熱帯ジャポニカ由来の雑草イネの出芽について、当研究所で3系統(A~C)を調査した結果、4月後半~5月前半が出芽盛期となり、5月後半以降も続きました(図1)。
このため、出芽盛期を過ぎた後の5月中旬以降に代かきをして発生中の雑草イネを土中に埋没させます。さらに、その3日以内に栽培イネの田植えをし、田植え当日に雑草イネに有効な除草剤の初期剤を処理します(除草剤は、雑草イネの葉が緑色になってから散布しても効果はありません)。雑草イネの出芽は6月上旬まで続くので、一発処理剤を田植え後5~7日、中期剤を田植え後14日を目安に処理します。
なお、この記事で使用する移植水稲の除草剤区分は以下の意味で用います。
●初期剤 :代かき後から田植前7日まで、または移植時からノビエ1葉期頃までに使用する除草剤。中期剤または一発処理剤との体系処理を行います。
●一発処理剤:移植時からノビエ3葉期頃までに使用する除草剤で、残効が30日以上と長い。使用できるノビエの葉齢で「初期一発剤」、「初中期一発剤」という区分があるが、ここではまとめて「一発処理剤」とします。
●中期剤:初期剤の使用後、ノビエが3.5葉期頃までに使用する除草剤。初期剤施用後に体系処理として用います。
※ 田植同時処理における登録上の使用時期について
田植同時処理に使用する除草剤は使用時期に「移植時」の登録があるものに限られます。使用時期が「移植直後」の適用しかない除草剤は、田植同時処理には使用できないので注意してください。
公益財団法人 日本植物調節剤研究協会(植調協会)のホームページで「雑草イネ有効剤として実用可能と判定された水稲用除草剤」が公開されています。こちらに具体的な除草剤名が掲載されています。ぜひご参照ください。除草剤の組み合わせ等のご相談は、お近くの農業改良普及センターにお願いいたします。
雑草イネの種子は圃場内で2年以上生存し、出芽能力を有します。多発生水田では防除対策を3年続けても種子が水田に残っている場合もあるので(図2)、雑草イネの発生が見られなくなるまで対策を継続します。
有効な除草剤の処理時期にご注意ください!
雑草イネの芽が出る前、もしくは緑化する前でなければ、雑草イネに有効な除草剤であっても効果は得られません。
植物体が小さいうちなら除草剤が効くと思われがちですが、「雑草イネ」も植物学的には「栽培しているイネ」と同じ「イネ」なので、緑色の葉を出している状態で「雑草イネ」だけを枯らすということはできません。
雑草イネに有効な除草剤を使う際は、水田に十分に水を張った状態で、除草剤を用法・用量を守って使用し、土壌表面に除草剤処理層を形成します。水田土壌内に存在する雑草イネ種子が出芽する時に、除草剤処理層に雑草イネの芽が触れることで除草効果を得るということをご理解の上ご使用ください(図3)。