当研究所では、コナジラミ類の天敵昆虫であるタバコカスミカメを活用した環境にやさしい防除法の開発に取り組んでいます。
トマト栽培で問題となるコナジラミ類
コナジラミ類は、成虫でも体長が約0.8~1.0mmと微小な害虫で、植物の汁液を吸って生活します。世界で1,550種類以上発見されていますが、トマト栽培で主に問題となるのはタバココナジラミ(写真1)とオンシツコナジラミの2種類です。
コナジラミ類によるトマトの被害
果実等に付着したコナジラミ類の排泄物にかびが増殖してすす病が発生し、問題となります。また、ウイルスに感染した株の汁液を吸ったコナジラミ類が、健全な株の汁液を吸うと、その株がウイルスに感染します。このようにコナジラミ類が媒介する主要なウイルスとして、トマト黄化葉巻ウイルス(写真2)と、トマト退緑ウイルス(写真3)があります。
現在、ウイルス病を治療できる薬剤がないため、発生拡大を防ぐためには、発病株の抜き取りとウイルスを媒介するコナジラミ類の徹底した防除が重要となります。
天敵のタバコカスミカメで防除
タバコカスミカメ(以下 カスミカメ・写真4)は、成虫の体長が約3.0~3.5mmのカメムシ類の一種です。雑食性でコナジラミ類などの害虫を大量に捕食します。
西日本では、野外に多く生息するため、採集して防除に利用できます。一方、東日本では生息数が少ないため、生物農薬として販売されているタバコカスミカメ剤(商品名:バコトップ)を購入して、防除に利用できます。
抑制トマトにおけるカスミカメを用いた総合防除法
抑制栽培トマトで問題となるコナジラミ類に対し、①カスミカメの苗放飼法と、②複数の防除資材を組み合わせることで、化学合成殺虫剤の使用回数を減らしつつ、慣行防除と同程度にコナジラミ類を防除できる方法を確立しました。
① 天敵の苗放飼法
定植1~3日前の苗に市販のタバコカスミカメを餌ひも(天敵の餌を練り込んだ麻ひも)とともに放飼すると、定植後にトマト株上に放飼する場合と比べてカスミカメの定着性が良く、また、天敵密度がより少ない放飼回数で、1~2か月程度早く増加します。具体的な方法は図1を参照ください。
トマト苗を育苗ハウスから定植するハウスに予め移動し、定植の数日前にタバコカスミカメを餌ひもとともにトマト2株当たり1頭換算量を放飼する方法
②天敵と組み合わせる防除資材
コナジラミ類の侵入や天敵の逃亡を防ぐため、ハウス開口部への防虫ネットを必ず展張します。また、ハウス内のコナジラミ類の増殖を防ぐため、黄色粘着シートの設置やコナジラミ類増加時にはカスミカメに影響の少ない薬剤による防除等を実施します。
総合防除法による防除効果
園芸研究所内の試験において、カスミカメは放飼後約1か月でトマト株上に定着し、7月下旬以降は株当たり1頭以上で推移しました(データ省略)。また、化学農薬のみの慣行区と比べ、化学合成殺虫剤の散布回数を減らしつつ、コナジラミ類の密度を同程度に抑制することができました(図2)。
現地の抑制トマト圃場で実施した試験でも、カスミカメの定着・増殖は所内試験と同様に良好で、栽培期間中のコナジラミ密度を低密度に抑制できました(データ省略)。
矢印は総合防除区、矢印は慣行区の殺虫剤散布日を示す
総合防除法を実施する場合の留意点
①化学合成農薬を使用する際は、鉢上げ時や定植時の粒剤、潅注剤にカスミカメに影響のあるものが多いため、影響日数等に注意して使用してください。粒剤等で長期間の影響のある薬剤を使用する場合には、トマト定植後にカスミカメを放飼してください。
②栽培品種には、トマト黄化葉巻病耐病性品種を用いてください。
③カスミカメが高密度になるとトマトを加害する恐れがあるため、増殖密度に注意してください。
④タバコカスミカメ剤を使用する施設の開口部へは、カスミカメが野外へ逃げないよう防虫ネットを張ってください。
⑤タバコカスミカメ剤を使用した施設では、作付け終了時に施設を密閉し、植物とカスミカメが死滅したことを確認した後に残渣を搬出してください。
⑥今回使用したタバコカスミカメ剤は令和5年11月8日現在、トマト(施設栽培)でコナジラミ類に農薬登録のある剤です。
なお、今回紹介した成果の詳細は以下をご覧ください。(PDF)
抑制トマトにおけるタバコカスミカメを用いたコナジラミ類の総合防除法
抑制トマトでの苗放飼法による天敵タバコカスミカメの定着促進効果