日本国内で報告されているグリホサート抵抗性オヒシバ
オヒシバ(雄日芝、学名: Eleusine indica)は、イネ科オヒシバ属の雑草で、本州以南の日なたに生育する背の低い一年生草本で、道端でもよく見ることができます。オヒシバの生育地は非農耕地や多種多様な樹園地、作物畑、野菜畑で、雑草として最も問題になるのは野菜畑です。 オヒシバの防除にはグリホサートが多用されてきましたが、他家受粉する上に種子生産量が多く変異が発生しやすいため、除草剤抵抗性を獲得したものと考えられています。
北関東では、茨城、埼玉、栃木などでグリホサート抵抗性オヒシバの発生が非常に多く報告されています。
グリホサート抵抗性発現のメカニズム
グリホサートは1974年からイネ科雑草、広葉雑草を問わずに防除できる非選択性茎葉処理除草剤として世界中で広く使用され、世界的にもグリホサート抵抗性雑草の出現は1996年まで見られませんでした。
グリホサートは、ベンゼン環のついた(芳香族)アミノ酸を合成する酵素を阻害することにより雑草を枯殺します。
一般的に除草剤抵抗性発現のメカニズムには、①標的酵素部位での耐性、酵素の大量発現、②代謝、結合または分解による除草剤の不活性化、③取り込み阻害や細胞中の液胞などへの蓄積促進による標的酵素の存在する葉緑体などからの除草剤の排除、④除草剤によって⽣成された有毒物質の解毒化などがあるとされています。
グリホサート抵抗性の場合には、①標的酵素部位での耐性・酵素の大量発現、②液胞へのグリホサートの隔離、③転流を阻害する急速な成熟葉壊死など複数のメカニズムが働いていると考えられます。 また、これらグリホサート耐性メカニズムは集団内および個体内で複数組み合わされることも知られています。
参考:『(冨永 農業および園芸 2015年 90巻1号 P.126-133)、(丹野 雑草研究 2021年 66巻1号 P11-15)』
グリホサート抵抗性オヒシバの管理方法
埼玉県本庄市、加須市の4か所で採取されたオヒシバにグリホサートカリウム塩を散布したところ、すべての系統で残草し、抵抗性個体が含まれることが推定されました。一方で、同じオヒシバの集団に対し、グリホサートとは異なる作用機序をもつ除草剤について除草効果試験を行った結果、ジクワット・パラコート、フルアジホップP、グルホシネートは全個体を枯殺することができ、これらの剤では十分な除草効果が得られました。
また、水田畦畔の管理では、早春の土壌処理剤の利用や水田畦畔に登録のある土壌処理剤と茎葉処理剤を組み合わせて防除することが有効であると考えられます。さらに、薬剤だけに頼ることなく耕種的な防除も取り入れる必要性についても提唱されています。
参考:『(丹野 雑草研究 2021年 66巻1号 P11-15)』
茨城県で採取されたグリホサート抵抗性オヒシバへのナブ乳剤の効果
~日本曹達(株)社内試験の結果から~
茨城県内で採取されたグリホサート抵抗性オヒシバ種子を含むと思われる土壌から発生してきたイネ科雑草に対してグリホサート剤の散布を行い、枯れ残ったオヒシバから種子を採取してグリホサート抵抗性オヒシバを選抜しました。このオヒシバをポットで栽培し3~5葉期になった時にナブ乳剤を散布しその効果を確認しました。
その結果、写真に示すように、ナブ乳剤は10a当たり150mlと200ml相当の散布量でグリホサート抵抗性オヒシバに対して高い除草効果を示しました。同じ試験を栃木県壬生町で採取した抵抗性オヒシバでも実施したところ、同様の結果が得られました。
写真グリホサート抵抗性オヒシバへのナブ乳剤の効果
日本曹達(株)社内試験(静岡県)、散布 21日後、A剤:グリホサートを有効成分に含む剤
ナブ乳剤の特長と上手な使い方
ナブ乳剤は1985年に日本曹達が開発したイネ科雑草用茎葉処理剤です。イネ科雑草の脂肪酸の生合成を阻害することにより枯殺します。
ナブ乳剤には次のような特長があります。
・イネ科雑草(スズメノカタビラを除く)に優れた殺草効果を発揮する
・50種類以上の登録作物に使用できる
・登録作物にかかっても影響がなく、ほとんどの登録作物に全面散布が可能
・浸透移行性に優れ、根まで枯らす
・散布後に薬液が乾けば、降雨の影響がほとんどない
・土壌中で速やかに分解されるため、後作物への影響がない
ナブ乳剤を効果的に使用するためには散布のタイミングが非常に重要です。ナブ乳剤は生育期のイネ科雑草に対して高い効果を有し、イネ科雑草3~5葉期の散布が効果的です。
一方で、イネ科雑草の出穂期以降や低温期等、雑草の生育が停止している時期は、生育期に比べ効果が劣る傾向にあるので注意が必要です。なお、ナブ乳剤は登録のある作物には直接かかっても影響がないことが確認されており、全面散布が可能な剤となっています。
また、ナブ乳剤は土壌処理効果がほとんど期待できないので、イネ科雑草が生え揃ってから散布するようにしてください。
ナブ乳剤はやや遅効的な薬剤のため、効果が認められるまでに数日を要しますが、優れた浸透移行性を有し、根まで枯らすことができます。また、処理後薬剤が乾いてしまえば雨が降ってもほとんど影響が見られず、散布翌日以降に雑草を刈り取ってしまっても雑草の再生はほとんど見られないという点においても非常に有用な薬剤であると考えられます。
ナブ乳剤の、製品仕様、主な特長、効果・薬害などの注意、適用表などの詳しい情報は、こちらからご覧ください。
農薬使用時の注意
記事の作成にあたっては、農薬使用基準の内容について細心の注意をはらっていますが、農薬を使用する方は必ず、使用する前にはラベルを見て、対象作物、希釈倍数や使用量、使用時期、使用回数等を確認し、農薬の誤った使用を行わないようにしてください。