そこで、カンショ栽培において分解性の異なる生分解性マルチを選び、生産者が生分解性マルチを導入する際に必要となる情報を整理しました。
生分解性マルチの分解性とマルチ内の土壌環境
生分解性マルチの種類により分解特性は異なっていました(写真・図)。水戸市での事例では「イモイモマルチ」はマルチ展張日から60日後、「スーパードロン」や「カエルーチ」は同100日後、「ビオフレックス」は同130日後から生分解性マルチの分解が始まりました。
定規の大きさは縦、横ともに20cmである
(上/マルチの分解特性、中/地温、下/含水率)
地温および含水率は、マルチ下10cmの測定結果である
ポリマルチとの比較による生分解性マルチの土壌環境(地温と含水率)は、地温は、栽培期間中低く推移し、含水率は、栽培初期は低く栽培中以降はマルチの崩壊および降雨により高く推移します。土壌環境は生分解性マルチの分解タイプによっても差が見られます。早期分解タイプの「イモイモマルチ」は他よりも地温が低く、降雨による含水率の変動がマルチ展張から90日以前から始まりました。一方で、中長期分解タイプの「ビオフレックス」は「イモイモマルチ」よりも地温が高く、降雨による含水率の変動はマルチの展張から90日以降から始まりました(図)。
生分解性マルチの違いがカンショ収量に及ぼす影響
生分解性マルチ使用時のカンショ収量は、マルチ銘柄、圃場や年次によりばらつきがあるものの、おおむねポリマルチ使用時と同等となります(表1)。
マルチ銘柄 | 収量(kg/10a) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
平均±標準偏差 | |||||||
イモイモマルチ | 2,694 | 3,226 | 2,815 | 2,615 | 2,567 | 3,194 | 2,852±290 |
2,631 | 3,335 | 2,613 | 2,487 | 2,472 | 2,577 | 2,686±325 | |
カエルーチ | 2,270 | 3,253 | 2,435 | 2,388 | 2,479 | 2,706 | 2,589±355 |
ビオフレックス | – | – | 3,220 | – | 3,511 | 2,378 | 3,036±589 |
ポリマルチ | 2,286 | 3,251 | 2,979 | 2,106 | 3,275 | 2,335 | 2,705±524 |
カンショ栽培期間は挿苗日が5~6月、収穫日が10~11月の150日栽培である
R:令和
生分解性マルチ栽培が片付け作業性に及ぼす影響
カンショ栽培に生分解性マルチを導入することで、ポリマルチの回収や処分が省略できるため、ポリマルチと比較した場合、生分解性マルチの導入により、10a当たり作業時間を4.46時間削減し、回収と処分にかかる費用を5,873円削減できることが試算されました(表2)。そのため、ポリマルチから生分解性マルチ栽培に転換する際には、ポリマルチと生分解性マルチとの購入費用の差額が「10a当たり5,873円以内に収まるか」が経費の面での導入基準となります。
項目 | マルチの種類 | マルチ回収 | マルチ処分 | 合計 |
---|---|---|---|---|
作業時間(時間/10a)1) | 生分解性マルチ | 0 | 0 | 0 |
ポリマルチ | 4.00 | 0.46 | 4.46 | |
経費(円/10a)2) | 生分解性マルチ | 0 | 0 | 0 |
ポリマルチ | 4,000 | 1,873 | 5,873 |
1)作業時間はR3五霞町で得られたデータである
2)マルチ処分費用を59円/kg、マルチ残存量を24kg/10a、時給1000円として試算した
なお、ポリマルチは、自治体により定められた収集日までにマルチに付着した土落とし作業やつづら折りにする包装作業が追加で必要となる場合があります。その場合、省力化や回収費用低減以外にも、生分解性マルチの導入メリットはさらに高まる可能性があります。
目的に応じた生分解マルチを選択する
カンショ栽培における各生分解性マルチの特性をまとめたものが表3となります。生分解性マルチの種類により崩壊特性が異なることで、雑草抑制効果やすき込み後のマルチの飛散量に違いが生じます。そのため、導入にあたっては目的に応じた生分解性マルチを選択してください。
ポリマルチ栽培との |
マルチ |
マルチ崩壊開始時期 |
雑草抑制効果1) | 圃場間のマルチ崩壊の |
マルチ飛散量3) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0~5cm | 5~20cm | 20cm以上 | ||||||
同等 | 無 | 約60日 | △ | 小 | 多 | 中 | 少 | |
スーパードロン | 同等 | 無 | 約100日 | 〇 | 小 | 少 | 中 | 中 |
同等 | 無 | 約100日 | 〇 | 大 | 少 | 少 | 中 | |
ビオフレックス | 同等 | 無 | 約130日 | 〇 | 小 | 多 | 多 | 多 |
1) 〇:ポリマルチと同等、△:早期の亀裂によってポリマルチよりやや劣る場合あり
2) 小:圃場や環境によってばらつきはあるが程度が小さい、大:圃場や環境によってばらつきが比較的大きい
3) 水戸市圃場において、栽培終了後に1回のすき込み試験によって飛散した最大断片長別のマルチ量(枚数)を示す
※今回使用した4種類の生分解性マルチ内での比較である
現在、茨城県では「省力化・グリーン化同時実現型資材活用推進事業」により、生分解性マルチの導入を支援しています。生分解性マルチの導入を検討している方は、ぜひご活用ください。また、生分解性マルチは栽培終了後に最低2回以上のすき込み作業を推奨しています。栽培が終了しても放置せずにマルチの飛散がないように徹底的な処分を行ってください。