
イチゴの奇形果発生の原因は、ミツバチの訪花不足、花粉稔性の低下、雌ずいの異常、低温、高温、寡日照、過剰施肥などが指摘されています。しかし、各種の因果関係が複雑に絡み合っており、有効な対策技術が確立されていません。当研究所では奇形果発生の対策技術を開発するため、複数年にわたり種々の条件下で栽培試験を行ってきました。そのなかで、ほぼ同一の耕種条件で栽培を行っても、栽培年次により奇形果の発生傾向が異なる事象が認められました。
そこで、奇形果発生の対策技術の資とするため、奇形果の発生程度が異なる栽培年で比較を行い、とくに生育バランスに着目してその発生に関連すると考えられる要因の解析を行いました。
3か年のデータを解析
栽培は当研究所内のパイプハウス(間口5.4m×奥行13.5m)で行い、2019年、2022年、2023の3か年のデータを解析に用いました。いずれの栽培年も土耕で栽培し、育苗は短日夜冷処理をして、2019年9月5日、2022年9月5日、2023年9月7日にそれぞれ定植しました。短日夜冷の条件は暗期16時間、15℃とし、2019年8月1日、2022年8月1日、2023年8月3日にそれぞれ処理を開始しました。定植の基準は花芽検鏡により、がく片形成の確認後としています。
施肥量は基肥としてN:P2O5:K2O = 10:10:10 kg/10a、追肥は収穫開始頃を目安に開始し、養液土耕栽培装置を用いてN成分で月当り1~2kg/10a程度施用しました。調査項目はハウス内環境(気温、湿度、CO2濃度、日射量)、生育(草高、葉身長、葉柄長)、開花、花房間葉数、奇形果の発生程度および各時期(定植、頂花房開花始期、各花房の収穫始期、栽培終了時)における地上部の器官別乾物重(葉、果実(未熟果を含む)、クラウン、ランナー、側枝)としました。
●奇形果の発生状況
まず、各栽培年で奇形果の発生状況を比較すると、2019年作が最も発生が多く、次いで2022年作、2023年作となりました(表)。花房別に奇形果の発生傾向を比較すると、いずれの栽培年においても発生が多かった花房は1次腋花房でした。
花房 | 栽培年 | 正形果 | 奇形果※1 | |
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A品相当 | B品以下相当 | |||
頂花房 | 2019 | 84.7 | 8.8 | 6.6 |
2022 | 95.6 | 3.3 | 1.1 | |
2023 | 94.6 | 5.1 | 0.3 | |
1次腋花房 | 2019 | 45.5 | 37.8 | 16.7 |
2022 | 68.6 | 24.9 | 6.5 | |
2023 | 80.4 | 13.6 | 6.0 | |
2次腋花房 | 2019 | 90.3 | 5.4 | 4.2 |
2022 | 82.6 | 16.4 | 1.0 | |
2023 | 89.2 | 10.8 | 0.0 |
※1「いばらキッス」の選果基準の果形の基準のみに基づいて分類した
経営上特に問題となるB品以下の奇形果発生率を比較すると、2019年作は16.7%、2022年作は6.5%、2023年作は6.0%であり、2019年作が特に発生が多く認められました。生育の指標として草高の推移を比較すると、2019年作のみ11月中旬まで伸び続け、旺盛な生育を示したのに対し、2022年作と2023年作は10月中旬でいったん頭打ちとなり、11月中旬時点では2019年作に比較して8~10cm程度低い結果となりました(図1)。

●地上部の乾物重
葉、果実および地上部合計の乾物重の推移を比較すると、葉の乾物重は年次間差異が小さいものの、2019年作は終始高く推移していましたが、果実の乾物重は1次腋花房の収穫始期以降2019年作が低く推移し、年次間差異が大きい傾向にありました。この傾向は、地上部の合計乾物重においても同様でした(図2)。



各器官への乾物分配率を比較すると、頂花房収穫始期以降2019年作は2022年作および2023年作と比較して果実への分配率が低く、時期を追うごとにその差が大きくなり、栽培終了時では2019年作が47.5%、2022年作が62.4%、2023年作が64.7%となりました(図3)。






これら年次変動とハウス内環境との関係をみたところ、奇形果の発生が多かった2019年作では10月の最低気温が高く推移し、発生の少ない2023年作では低く推移しており、最低気温が影響しているのではないかと考えられました(図4)。



●生育バランスとの関係
以上の結果から、奇形果の発生は生育のバランスと強い関連性があり、定植後から11月頃までの草勢が強く、栄養成長性が強いほど発生が多くなると考えらました。また、この生育バランスは、果実と葉における同化産物の競合に関連しているものと推察されました。
年次変動を発生させる気象的要因は10月の最低気温が影響しているものと考えられ、この時期の夜温が果実のシンク強度(着果量)と奇形果の発生に関連していると考えられました。
奇形果の発生を抑制し、多収となる栽培指標の作成を
前述した通り、奇形果の発生は複数の要因が関連しているため、本稿で紹介した内容以外にも、影響を及ぼしている要因があるものと考えられます。とくに着果量は気象条件以外の影響も受けることから、より複雑な解析が必要となりますが、今後はこれらの知見を基に、安定して奇形果の発生を抑制しつつ、多収となる栽培指標を作成していきたいと考えています。
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本研究は「特別電源所在県科学技術振興事業」および「令和3年度補正予算戦略的スマート農業技術等の開発・改良事業」により実施しました。