つづく農園の技術を掘り下げる
都竹さんは、「経営規模を44a(本圃)に増やし面積的には限界なので、もう少し収量を増やしたいと考えています」と言います。しかし、現在でも収量は平均10a当たり5tで5.5tの年もあります。そこで、高収量を支えるつづく農園の技術について聞きました。
●記録していつでも振り返る
技術の裏付けとなることは、とにかく毎日の作業などを記録して、すぐに振り返ることができるようにしていることです。夜ご夫婦で、その日あったことを振り返りながら、手帳に手書きで記録していきます。紙のほうが、ぱらぱらとめくれて、意外と検索しやすいそうです。
また、圃場ごとの作業記録はデジタルで記録しつつも、1枚のボール紙に全圃場の定植日、葉かきの回数、マルチを貼った日付などの作業記録を書き込んでいきます。記録したボール紙を大事に保管していつでも取り出せるようにしておくと、直ちに昨年あるいは数年前の作業を振り返ることができます。
課題は毎年1つずつ解決する
都竹さんは、農園に存在する複数の課題の中から、その年に最優先で解決すべき課題1つを選び、対策技術の確立に取り組んでいます。1課題に絞ることにより、課題解決のために導入した技術の効果をハッキリと把握することができるし、だめならば元に戻すことも容易です。
今、最優先で取り組んでいる課題は、夜冷育苗をすると1番果と2番果の間隔が空くことへの対策で、「いばらキッス」で特に問題となっています。その対策として、県園芸研究所と相談しながら、新技術の「クラウン冷却技術」を試してきました。今年は8月、9月と例年にない暑さが続いたので、冷却効果が出るのではないかと期待しています。
このほかにも、別な方法による制御も検討しています。このように、1番果と2番果の間隔を狭くするという課題に絞りこんで、種々の観点からアプローチしていくのです。
データ駆動型高収益経営体系の実証研究への参画
2020~2021年(令和2~3年度)に、国のスマート農業実証事業課題「直売イチゴ経営におけるスマートフードチェーン構築によるデータ駆動型高収益経営体系の実証」において、環境制御技術やアシストスーツなどの先進技術を導入し、増収効果や労力削減・疲労軽減効果を実証する研究に実証経営体として参画しました。
参画を決定した理由について伺ったところ、「スマート農業はドローンとか自動操舵とか大規模農家がお金かけて取り組むものというイメージがあって、自分のような経営規模では縁がないものと思っていました。しかし、実証実験のお誘いを受けたとき、その内容を見て、自分のような中・小規模の農家が、少しでも効率的に栽培できることが実証されれば、世の中にスマート農業を広めることができるのではないかと考えました。やがてはスマート農業が当たり前になる日が来ると思い、手軽に導入しやすいスマート農業確立のお手伝いをしたいという気持ちでした」と言います。
こうして、都竹さんは、環境制御、AI養液土耕システム、集客予測、アシストスーツなどの体系的な技術実証試験に参画しました。
次に、それぞれの技術についての率直な感想を聞いたところ、以下のようにご回答いただきました。
・ユビキタス環境制御(UECS)
「十分これからのイチゴ栽培に使っていけるという感触を得ました。でも、今の段階では、ある程度熟練した生産者のほうが導入効果は高いと考えます。それは、圃場での計測で得られた環境データと作物の状態を融合して判断しなければならず、ベテラン農家でないとそれは難しいと思うからです」
・需要予測(集客予測)
「NTTのビッグデータを使って、農園直売所に次いで販売額の多い『常陸大宮道の駅~かわプラザ~』(以下 かわプラザ)に集まるお客様の数を予測して、その時期にどのくらいイチゴが売れるかを予測するものです。使ってみたところ、実際に売れ残りを減らすことができました」
・アシストスーツ
「実証に用いたスーツは空気の圧力で人工筋肉をつくるタイプで、本体価格が15万円と手頃で、電源を必要としないものでした。イチゴは葉かきや収穫など、中腰で作業することが多く、腰に大きな負担がかかります。このアシストスーツを使うようになってから、朝腰が痛くて起きられないということがなくなり、整骨院に通う必要がなくなりました。中腰の連続姿勢が無理なくできるので、農園では5台導入しました」
実証研究を通じて、都竹さんは国・県の研究者や民間の技術者と活発な意見交換を行い、AI養液土耕システムでは、都竹さんの意見もあり、土壌水分、EC等に加えて施設の気温や湿度も総合的に把握できるよう改良されたそうです。
都竹さんは、これら実証研究に参画することで、新技術を自身の経営に活かすだけでなく、その先駆けとなることで、指導的農業者の責務を果たそうとしているようにも見えます。
地域の発展が農園の経営発展に繋がる
●「奥久慈いちご研究会」の立ち上げ
都竹さんの一番の目標は、この地に来てイチゴを買ってくれる人を増やし、常陸大宮地域をイチゴの産地とすることです。「つづく農園だけにお客様が集まるようでは、地域として廃れていく一方になります。イチゴを作る仲間、すなわち同志を増やして、産地化することが最も重要です。県内では大子町のリンゴ産地や常陸太田市のブドウ産地をイメージしています。これらは直売型の経営体でありながら、産地としてまとまりお客を呼び込んでいます。農園の正面を走る国道123号を「ストロベリー街道」にすることが夢です」と言います。
今、常陸大宮地域では、都竹さんやそれ以前に新規参入された早川農業経営士に倣い、イチゴで就農した新規参入者が数多く存在しています。早川さんや都竹さんの実績が彼らを呼び込んだとも言えます。
そのような中、早川農業経営士の発案で、常陸大宮普及センター管内のイチゴ生産者が技術を研鑽できる場として、「奥久慈いちご研究会」を立ち上げることにしました。正確にはすでにあった研究会を復興させる取り組みです。研究会員は現在12名。うち9名が新規参入者です。平均年齢は35歳前後と若く、昨年まで会長を務めていた都竹さんは、若い会員がもっと活躍できる場にしたいと願っています。
優れたイチゴ経営を実践している早川さんや都竹さんが、地元と協力して良きアドバイザーとなり、新規参入者が活動しやすい場所にしてきました。都竹さんは「この地域は新規参入者にとって、将来への不安よりも、夢や希望を持ちやすい環境になってきている」と実感しています。
●力を合わせて販売に取り組む
7年前(2016年3月)に、かわプラザが開設したことが、販売のうえで大きな転機となりました。集客力のあるかわプラザの直売所へ、都竹さんと地域のイチゴ生産者は優先的にイチゴを搬入しました。やがて、かわプラザでの購入をきっかけに、農園の直売所に来てくれるお客様が増え、販売における直売の比率は、徐々に増加して現在の95%に達しました。
それぞれの生産者が、ネームの入った商品をかわプラザで販売し、お客様を呼び込む。こうした活動を継続していきながら、「奥久慈いちご」をブランド化していきたいと構想しています。
都竹さんは「これからも、かわプラザでの販売額を増やしていきたいが、単価の高いところは若い生産者に任せて、彼らの直売所にお客様を呼んでもらい、自身は市場出荷の割合を増やしていきたい」と考えています。かわプラザ直売所での販売は、商品を運んで並べ、売れ残れば回収しなければならず、これから年齢を重ねるにつれて負担が大きくなるだろうと感じているからです。
今後のつづく農園は
●みんなのパワーを集めれば
つづく農園の経営理念は「おいしい笑顔を食卓に」ですが、これはこれらからも持ち続けていきたいと言います。
「地域全体で良くなることがつづく農園にとっても重要なのです。一人勝ちしようとすると自分のパワーを持続する必要があり、疲れるし長続きしません。みんなのパワーを集めれば、自分は半分の力で浮かび上がっていくことができるのです」と言います。このように考えるのも、研修を受けた八木岡経営士の影響が大きいと振り返ります。
でも、拡大できるところまではやりたいし、かつて夢見た「ベリー園」構想はまだ捨てていないそうです。
今後は、イチゴの栽培技術的には、収量と品質をさらに向上させて行く一方で、都竹さんや一緒に働いてきたパート職員も年齢を重ねていくことを考慮して、あまり労力をかけずに収益をあげる方法を模索しています。その方法の一つとして、イチゴ狩りの面積を増やすため、新たに摘み取り用のハウスを整備しました(画像)。大人も子供も楽な姿勢で摘み取りが楽しめるよう、それぞれに適した高さのたなを用意しました。また、自動販売機を設置して、営業時間外でも販売できる取り組みを始めています。
●息子たちには好きなことを
都竹さんご夫婦には、大学生のご子息が二人いらっしゃいます。でも、自分がそうしたように、彼らには好きなことに取り組んでもらいたい。だから、農園の事業承継は強制しないことにしています。
このため農園は、第3者承継も視野に入れ、法人化して承継しやすい組織とすることも検討しています。「第3者に経営を承継するのも、実現すれば1つの農家のあり方としてモデルになるのではないか」と考えています。
農業経営士として
都竹さんは、2017年(平成29年)から、「茨城県農業経営士」として、農業者の育成活動などに取り組んでいます。農園に、将来農業を目指す研修生を受け入れることで、自分自身の考えがリセットされ初心に帰ることができるそうです。
そして、農業経営士の集まりに出席するたびに、皆さん志が高くバイタリティーのある人ばかりだと感じ、自分はまだまだだなあと思いもう少し上を目指さなければと感じるそうです。
奥様にもお話を伺いしました。
都竹さんからいただいた名刺を見ると、つづく農園のロゴに、都竹大輔・友美さんご夫婦の氏名と画像が印刷されています。これだけでも、お互いをパートナーとしてリスペクトしていることがわかります。
最後に、友美さんに、就農前と後の変化も含めてお話を伺いました。
東京では、友美さんは作業療法士として活動され、大輔さんは建設関係と、お互い仕事の話をしていても「ふーん、そうなんだ」と聞く程度で、本当にかみ合うことは少なかったと言います。
しかし就農後は、いつも同じ職場にいて、四六時中イチゴの話をするようになったとのこと。時には、議論が白熱して夜中になることもあります。「お互いの意見やアイデアを出し合う中で、不思議と二人の考えがピタッと一致することがあります。そういうアイデアは実行すると必ず良い結果になるのです」と友美さんは言います。
その1つにお徳用イチゴの販売があります。春先に発生する小粒のイチゴは市場には出荷できず、加工用で販売すると安値での取引になってしまいます。そこで、小さな箱に、小粒のイチゴ4パック分を山盛りにして販売したところ、たちまち人気となり、農園の売れ筋商品の1つになりました。
商品の並べ方や見せ方、手に取りやすさなど、友美さんならではの目線が直売活動に活かされ、お互い足りないところを補い合っているようです。
笑顔の素敵な都竹さんご夫婦。イチゴの季節には、お二人に会いに「つづく農園」に出かけてみたくなりました。