経営改善と販売先の拡大につながる
GAPの取り組みに関しては、大きく分けて5つの項目があります。「農場運営」「食品安全」「環境保全」「労働安全」「人権・福祉」(JGAP農場用 管理点と適合基準より)です。そのそれぞれが直接的または間接的に農場経営に関わっているものであり、上手に管理することができれば農場の経営は安定し、改善していくことになります。実際にGAP認証を取得した生産者の方からは、経営改善に繋がったという声を多く聞きます(図1)。
【回答結果】
【分析】
→上位10項⽬のうち、従業員に関する効果の項⽬が半数を占めたこと、また、法⼈経営の⽅が改善したと回答した割合が⾼いことなど、GAPは従業員の意識改⾰に有効。
→農業⽣産に関する効果のうち、「販売先への信頼(営業のしやすさ)」「⽣産・販売計画の⽴てやすさ」「資材の不良在庫の削減」については、家族経営と法⼈経営で割合に⼤きな差異はなく、経営形態に関わらず効果を発揮。
図1 GAP導入前後の改善状況
「株式会社政策基礎研究所 令和元年度GAP導入影響分析のための調査委託事業(農林水産省委託事業) 令和2年3月」より
具体的にはGAP認証を取得することにより、販売先が広がることです。よく聞く話として、大手スーパーやその他GAPパートナーなどもGAP認証の野菜等を一部または全部指定で購入しており、GAP認証を取得していないと納品できない販売先が増えてきています。
●労働安全面
農場の作業におけるリスクを洗い出して、対策を検討しルールを作り、それを掲示等して実践することにより労働事故が減少したという報告もあります。
労働事故が減れば、それだけ労働力確保に繋がります。
●食品安全面
作業を行う前の手洗い消毒をルール化して表示、確認をすることにより、「ついうっかり」を防ぐ事ができ、農産物への病原性微生物の付着を減少させることに繋がります。また、作業時の服装、持ち物のルール化は出荷農産物の中に異物が混入することを防ぐ効果があります。
●農場運営面
JGAP2016の管理点において作業工程を明確にすること、その作業のリスクを洗い出し、リスク回避の対策を検討すること、必要に応じてその対策を掲示することを求めています。これを実践することにより、作業者による作業内容の差異を統一することができ、新人にもベテランとの作業内容の差異が少なく作業を行ってもらうことができます。
また、このような資料を作成することにより、後継者への世代交代も比較的スムーズにできるようになるでしょう。
●農薬の管理・使用
JGAP2016の管理点において、農薬の散布計画の策定、散布時リスクの洗い出し、使用時の記録等を求められます。栽培規模が大きい生産者の方は、臨機防除では対応しきれないために、農薬散布計画を作成されていると思いますが、臨機防除のみで対応されている生産者の方には、散布計画をたてて農薬の購入、散布をすることにより、効率的な農薬散布ができ、経済的なメリットが期待できます。
また、散布計画を作成するに当たっては、過去の農薬の使用実績をもとに作成することになると思いますが、過去の薬剤の効果などを勘案することにより、農薬に対する抵抗性(耐性)の程度を確認するきっかけにもなります。また、化学農薬の代わりに生物農薬の導入を検討することにより、環境に配慮した防除にもつながります(IPMの実践・図2)。計画を作成するときには県の農業改良普及センターや農薬販売店等にも相談されることをお勧めします。
さらに、農薬の保管・在庫管理に関しても言及していますので、農薬の誤使用、ロスを防ぐ事にもなります。
「農林水産省 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針 平成17年9月30日」より
年1回は見直しを行い、PDCAサイクルを回す
以上は部分的なGAP認証取得による効果です。「すでにそんな事はやっている」と言われる方もいらっしゃると思います。しかし、何年もやっているとついマンネリ化して、ただやっていると言った状況になりがちです。JGAP認証取得後、維持するためには最低年1回の管理点の見直しが必要となります。管理点はその時の品種の変更、取引相手の変更等によってもリスクの対応が変わってきますので、受身ではなく積極的に見直してPDCAサイクル(計画→実行→点検→改善・図3)を回していただき、GAPを有効に活用し、さらなる経営改善を行っていただけることを願っています。
「農林水産省 これから始めるGAP~持続可能な農業を目指して~令和4年5月」より