茨城県は、全国の干しいも生産量の約9割を占める大産地で、令和3年度の本県での干しいも産出額は129億円( 茨城県ホームページより)で、年々増加傾向にあります。干し上がりの色が黄金色で肉質がねっとりとした「べにはるか」をはじめ、肉色が紫色で食味に優れた「ふくむらさき」や肉色が橙色で干しいも加工に適した「ほしあかね」など、様々な品種が干しいもに加工されています。
今回は、新しく干しいも生産を始める方、検討している方にむけて、品質の優れる干しいも加工のポイントを紹介します。
ポイント①原料いものデンプンを十分糖化させましょう
甘い干しいもを作るには、原料いもであるサツマイモを収穫後、デンプンを十分に糖化させ、ショ糖をできるだけ増やす必要があります。糖化のための貯蔵期間の目安は軒下やビニルハウスでの簡易貯蔵では40日以上ですが、品種によっても異なります。Brix糖度計で「べにはるか」で14度以上、「タマユタカ」で12.5度以上になったことを確認してから加工するとよいでしょう。
収穫した翌年2月以降も長期間加工したい場合は、キュアリング処理(※1)をして貯蔵適温の13℃付近で温度管理しながら貯蔵する必要があります。その後、加工前に糖度を確認してから加工してください。
(※1)キュアリング処理:原料いもを収穫後30~33℃、湿度90%以上の環境下に3~4日間程度置いてサツマイモの皮にコルク層を形成させて貯蔵中の病害虫の被害を抑える手法。
ポイント②じっくり蒸して甘くしましょう
甘い干しいもを作るもう1つのポイントは、じっくり蒸して麦芽糖を増やすことです。麦芽糖は、酵素であるβアミラーゼがデンプンを分解すると生成されます。βアミラーゼの働きが高くなる60~75℃付近の温度帯をできるだけ長く保つようにゆっくりと温度を上げていきます。
蒸し時間は全体で1~1.5時間程度ですが、いもを持ったときの手の感触(軟らかさ)や、串がスッと通るかどうか等で蒸しの仕上がりを判断します。
ポイント③適度な水分含量で軟らかく仕上げましょう
干しいもは、硬さも重要なポイントです。乾燥方法は、天日乾燥(雨よけビニルハウス)、機械乾燥(冷風、温風)があります。天日乾燥は平干しの場合で7日程度、丸干しの場合で14日程度を要しますが、コストがあまりかからず、香りや色つやに優れています。機械乾燥は、天日干しと異なり、天候に左右されにくく、加えて乾燥時間が7~48時間程度と生産性が高いことが特徴です。天日乾燥と機械乾燥を組み合わせて生産する方法もあります。
適度な乾燥度合いか確認する方法として、突き刺し水分計を利用する方法があります(写真1)。
干しいもは含まれる水分の量が多い方が軟らかい傾向がありますが、衛生面の問題が出てきますので、食感(軟らかさ)も考慮して仕上りの水分含量は22%を目安として加工するとよいでしょう。
冷凍処理を活用した干しいも加工方法を研究しました
最後に、令和4年度に当研究室で行った干しいも加工に関する研究を紹介します。当研究室では、繁忙期を避けて冬以降でもおいしい干しいもを加工する方法として、冷凍技術を利用した加工方法を研究しました(茨城県農業総合センター(2023)主要成果「「べにはるか」の冷凍技術を活用した干しいも原料芋の再加工技術の開発」)。この方法は、短時間蒸したいもを冷凍保管しておき、農閑期に再び蒸しあげてから加工するものです(図1)。研究の結果、この方法で加工した干しいもは、長期間貯蔵した原料いもを加工した場合と同程度のおいしさの干しいもに加工することができました(図2)。
※急速冷凍:ショックフリーザー。緩慢冷凍:-30℃冷凍庫
原料いもを60分蒸煮後に凍結保存し、再加工時に30分蒸煮した
食味は-2~2の5段階評価。18名(R1)または14名(R3)の平均評点
総合評価、見た目、香りは、高得点ほど良い
肉質は粉質(-2)~粘質(+2)
食感は高得点ほど軟らかく、甘味は高得点ほど強い
この方法は、長い期間にわたって13℃で温度管理しながら貯蔵する方法と違って細やかな温度管理が不要なので、簡易に原料いも(蒸しいも)を長い期間保管することができます。「干しいもの加工期間を長くしたい!」という方は、この方法を試してみてはいかがでしょうか。
ポイントをおさえておいしく加工
最後に、干しいもは原料いもの品種や、蒸し時間や乾燥方法等の加工方法の違いで、味や色合いが変わる奥が深い農産加工品です。今回、お伝えしたポイントを活かしながらおいしい干しいもを加工していきましょう。