日本政策金融公庫が行っている調査でも18.4%の人が「コロナ禍を経て農産物や食品のインターネットでの購入頻度が増えた」と回答しており、コロナ終息後も消費行動として定着すると考えられます。農業生産者にとっても販路の一つとして近年期待が高まっているように感じます。しかしながら農産物のネット販売は、すべての生産者に導入を勧められるものではなく、また、すぐに売り上げを伸ばせるような即効性のあるものでもありません。
ここでは、インターネットで農産物を販売する際の注意点や、販売額を増やすコツをまとめました。
農産物のネット販売を始める際に注意するポイント
① ネット販売のメリット・デメリットを理解しよう
農産物のネット販売は消費者に直接販売ができるため、価格を自身で決定できること、市場流通に比べ手取り額が増えることなどが主なメリットとして挙げられます。また、消費者と直接コミュニケーションをとることで、経営のモチベーションを高めることにもつながります。
一方で、個々の顧客とのコミュニケーションや個別の配送業務は生産者にとって負担が大きく、販売に業務時間を割きたくない生産者にはお勧めできません。ネット販売を始める際は、メリット・デメリットを十分理解し、ネット販売が自身の経営スタイルにマッチするかどうかを検討する必要があります。
② ネット販売の方法を選択する
農産物をインターネットで販売する方法を2つご紹介します(図1)。1つ目は「自社ネットショップ」です。これは生産者自身がネットショップを作成し、販売する方法です。近年は「BASE」や「STORES」など、ネットショップを簡単に作成できるサービスが普及し、ハードルが一気に下がりました。また、ほかの販売方法に比べ手数料が安いことも魅力です。ただし自社ネットショップは、ページを作っただけでは顧客が集まらないので、営業や広告など顧客を自社ネットショップまで誘導する施策を自身で行う必要があります。
2つ目が、近年よく耳にするようになった食べチョクやポケットマルシェに代表される「産直ECサイト」です(図1・2)。一次産品に特化した販売サイトで、自社ネットショップよりも簡単に出品が可能です。自社ネットショップとは違い、集客はサイトの運営側が行うので、何もしなくても自分の商品が閲覧される可能性が高まります。ただし、サイト内には同じ品目を作る生産者が多数いるため、販売量を増やすには、写真や商品説明を工夫して、たくさんの商品の中から選ばれる努力をしなければなりません。
販売額を増やすコツ
① 写真と文章は顧客目線で
産直ECサイトでは、掲載されているたくさんの商品から自身の商品が選ばれるために、商品写真・商品説明がとても大切です。特に写真は難しく思う方も多いですが、はじめはピントが合った明るすぎず暗すぎない商品の写真があれば十分です。慣れてきたらほかの生産者を参考に、背景にこだわったり、かごなどの小物を使ったりするなど、より魅力的に見える写真を目指しましょう。
商品説明は内容量や保存方法・レシピなど、顧客が欲しい情報に加え、商品の魅力やこだわりなどを整理して掲載すると差別化につながります。また、商品ページを作成したら必ず販売ページ(顧客が見るページ)からチェックしましょう(図2)。
②商品の規格を工夫する
ネット販売では、商品の配送は宅配便を利用するのが一般的で、顧客は商品代に加え、送料も負担します。商品単価が低すぎると商品価格に対して送料が高くなってしまい、送料の負担感が増してしまいます。これを防ぐためには商品単価を上げ、支払総額に対する送料の割合を下げることが必要です。
しかし、単価を上げるために、キュウリ5kgなど量を増して出品しても、顧客は使い切ることができません。そこで有効なのがセット販売です。複数の農産物を組み合わせて野菜セットを作ったり、同じ野菜でも品種別の食べ比べセットにしたりすることで、顧客は飽きることなく購入した野菜を食べきることができます。
また、「夫婦2人で1週間分の野菜セット」など使いやすさを意識したセットにすると顧客も量を迷わず購入できます。
③ SNSや営業ツールを活用する
ネット販売は、始めればすぐ売れていくものではありません(人気の果物など例外はありますが)。新しくお店を開いたらチラシや看板で集客をしなければならないのと同じように、ネット販売も自分のサイトまで顧客を連れてこなければいけません。ネット販売で売上を伸ばすのに相性のいいツールの1つがSNSです。日々の農作業の写真や作っている農産物を使った料理をSNSに継続して投稿することで、農園のファンを増やし、売上増加につなげます(図3)。
SNS以外にも大切なのが名刺やパンフレット、POPなどの営業ツールです。ネットショップのURLから二次元コードを作成し、各営業ツールに印刷します。それをイベント出店や日々の営業活動で活用することで、1人ずつ着実に顧客を増やしていくことにつながります。
ネット販売は相手の顔が見えず、不安を感じやすいため、会ったことのある人の商品やイベントなどで一度購入したことのある商品は、ほかに比べ安心して購入することができます。
売上アップだけではなく、リスク分散にもつながる
今回は初めてネット販売に取り組む際の注意点をまとめました。はじめは難しいこともあるかもしれませんが、少しずつ改善を積み重ねていけば、あるきっかけで注目された時に大きく売り上げを伸ばせる可能性を秘めています。また、1つの販路に頼らず、ネット販売を含め複数の販路を持つことで、コロナ禍で経験したようなリスクを分散することができます。向き不向きはありますが、始めてみて気が付くことも多いのがネット販売の特徴です。
紹介したネット販売の方法は、いずれも無料で始められますので、試しに取り組んでみてはいかがでしょうか。