育成の素材となる遺伝資源の収集
品種育成のスタートは、その素材となる様々な性質を持つ在来品種や系統など、いわゆる遺伝資源の収集です。特に、多様な特性を持つ海外遺伝資源の利活用は品種育成に有用ですが、近年の遺伝資源の権利に対する世界的な意識の高まりにより、海外からの新たな遺伝資源の導入は困難となっています。
そこで生工研では、植物遺伝資源の利用促進のための国際共同研究プロジェクトに参画し、特につる割病やうどんこ病などの病害抵抗性遺伝資源の獲得をねらい、カンボジアやネパールなど海外での遺伝資源の探索・導入、新たに導入したメロン遺伝資源の生育特性や耐病性の調査を行っています(写真1)。
矢印の葉片が抵抗性遺伝資源。他の葉片はうどんこ病菌に感染し、白い胞子が見られる
F₁品種作出に用いる親系統の育成
メロンの品種は、2つの親系統を交配して作出するF₁品種(雑種第一代)であることが一般的です。F₁品種は両親の長所を併せ持つことが見込めるため、例えば「味が良い」親と「病気に強い」親との組み合わせで「味が良く、病気に強い」F₁品種の作出が理論上可能となります。このためメロン品種育成は、まず完全でなくとも特徴のある優れた親系統を複数育成し、その親系統どうしを交配して最適な組み合わせを探すことにより進めます。
親系統の育成には、それまでに育成した系統や従来品種などの遺伝資源等を素材として交配を行い、自家受粉を繰り返して固定を進めながら、栽培試験や耐病性試験を何度も行い特徴を見出すため、5年以上の歳月がかかることもあります。
親系統どうしの交配によるF₁系統の選抜
育成したいくつかの親系統を様々な組み合わせで交配し、新品種候補となるF₁系統を作出します。作出した多数の新品種候補について、複数年の栽培試験で優れた特性を持つ系統を絞り込んでいき、有望な新品種候補として選抜していきます(写真2)。
食味は重要な評価項目ですので、F₁系統選抜の担当者は1シーズンに500個ほどのメロンを試食することになります。数百通りの親交配組み合わせの中から選抜していますが完璧な品種はありませんので、有望な新品種候補として選抜した系統は、その後、栽培技術の研究機関である農業総合センター園芸研究所において所内圃場や産地での試作を行い、その特性について新品種として普及する可能性を判断していきます。
バイオテクノロジーの利用
効率的な品種育成を進める上で、植物体の一部があれば耐病性や果肉色に関わる遺伝子の有無を判別できるDNAマーカーの利用は必須の技術です。DNAマーカーを利用することにより、苗の段階で目標としている形質を持つ個体を選抜することができ、栽培や選抜のための試験を大幅に効率化することができます。
生工研では親系統の育成・選抜に耐病性や果肉色のDNAマーカーを利用しているほか、新たな耐病性遺伝子やネット形質関連遺伝子のマーカー開発を行い、品種育成の効率化に努めています(写真3)。
F₁種子の純度検定
品種育成は作出して終わりというわけではありません。生産者が利用する種子の安定供給も重要です。メロンの種子生産のための交配は手作業で行うため、目的のF₁種子以外の種子が混入(混種)する可能性があります。
生工研では、本県育成品種の種子生産を担う「(公社)茨城県農林振興公社」で生産した「イバラキング」F₁種子について、PCRを活用した混種判別(純度検定)を行っています。検定結果をもとに、混種を排除した純度の高い種子の安定供給に尽力しています(写真4)。さらに迅速・大量・安価に検定できる手法の開発も行い、「イバラキング」の普及拡大に貢献しています。
産地からの要望を踏まえた新品種の育成
産地からは「イバラキング」と同時期に出荷できる県オリジナルの赤肉品種やしおれに強く高温期の6月でも安定出荷が可能な品種などの育成について要望があり、それに応えるため、現在は赤肉品種をメインに据えて育成を進めています。また、産地で問題となっているうどんこ病やつる割病に対する抵抗性や、クラウンメロンのような高級用途向けの優れた外観、輸出に向く日持ち性などに優れる品種の開発についても同時に研究を進めています。
生工研では、メロンの品種育成について遺伝資源収集から種子の安定供給まで幅広い研究開発を行い、新品種を通じてメロン生産者の所得・経営向上、産地の発展に貢献していきます。