「茨城農業の将来ビジョン」の策定の背景
茨城県の農業は、広大で肥沃な農地や首都圏に位置する地理的優位性などの強みを背景に、農業者および産地が、消費者ニーズを的確に捉え、高品質で安全・安心な農産物の生産に取り組んでいます。
一方で、予想を上回る人口減少に直面するなか、農業者についても急激な減少が見込まれており、本県における2050年の農業経営体数を推計すると、主要な個人経営体は現在の3割程度まで減少し、法人経営体は現在の2倍以上に増加するものの、全体として現在の経営体数の約3分の1まで減少することが予測されます(図1)。
「2020年以前は農林水産省「農林業センサス」「世界農林業センサス」(組替集計)、2050年は県農業政策課推計値」より
こうした中、県では、おおむね30年後を見据えた本県農業の目指す姿を明らかにし、中長期的な視点に立った課題や政策の方向性を示す「茨城農業の将来ビジョン」(以下 農業ビジョン)を昨年5月に策定しました(図2)。
茨城農業を魅力ある産業として次世代に引き継いでいくためには、「儲かる農業」の実現を目指し、本県農業の収益性を高めるための構造改革を進めることが重要です。
農業ビジョンでは、2050年までに農業産出額を5,000億円(2022年時点では4,409億円)、経営体当たりの所得を1,000万円に向上させることを目指し(図3)、意欲ある担い手がけん引する農業構造への転換、収益性の高い農業構造の実現を、政策の方向性として掲げています。
意欲ある担い手がけん引する農業構造の実現に向けては、経営者マインドを備えた意欲ある担い手の育成・確保に努めるとともに、多様な事業展開や雇用就農者などの人材の集積、安定的な継承、地域の持続的な発展などを実現するため、農業経営の法人化を進めていきます。また、県内外の農業法人や農業参入を志向する異業種企業を新たな担い手と捉え、農業への参入を促進しています。
収益性の高い農業構造の実現に向けては、米では、高収益作物などへの品目転換や、農地の集積・集約化による経営規模の拡大、園芸では、高品質な差別化商品の開発や、ICT技術活用による生産性の向上に取り組んでいます。さらに輸入に依存する化学肥料に頼ることなく、他の農作物との差別化を図ることができる有機農業を推進し、畜産では、輸出を意識した「常陸牛」の生産体制の強化などに取り組んでいます。
農業ビジョンにおける分野別の政策の方向性
農業ビジョンにおいては、米、園芸、畜産の分野別、および有機農業、輸出、加工など分野横断的な政策の方向性に基づき、各種施策の立案と展開を図っています。
(1)米の生産構造の目指す将来の姿
米については、国内の需要の減少傾向を踏まえ、地域の状況に応じて野菜などの高収益作物などへの転換や、特色ある米づくりを目指します。
具体的には、他品目への転換が可能な水田については、「カンショ」や「レンコン」、国産化のニーズが高い麦・大豆などへの品目転換を推進するとともに、施設園芸向けの基盤整備の実施などを推進します。また、米以外の生産が困難な水田においては、50ha以上を目指す経営体への農地の集積・集約化による規模拡大や、有機栽培米、中山間地域での良食味米、輸出用米など付加価値が高い主食用米を生産する特色ある米づくりを推進します。
(2)園芸の目指す将来の姿
施設園芸については、①高度な環境制御技術の導入による飛躍的な生産効率の向上と高付加価値化の実現、②水田からの転換による施設園芸産地の拡大を目指します。
具体的には、ICT技術活用による生産性向上や産地の拡大に対する支援を行い、従来の勘と経験に基づく施設園芸から、データ駆動型への転換や、メロン・イチゴなど贈答・輸出向けプレミアム商品の創出と展開、大規模施設経営を志向する法人の誘致と生産基盤の整備を推進します。
露地園芸については、①付加価値の高い差別化商品へのシフト、②多様な販路に対応できる生産体制の構築により、価格転嫁が可能な『選ばれる産地』の確立を目指します。
具体的には、本県の強みである一定のロットを確保した上で、茨城独自の差別化商品づくりによる販売単価の向上や、カンショ、ハクサイ、キャベツ等の輸出・加工業務用産地づくりを推進します。
(3)畜産の目指す将来の姿
畜産については、①神戸牛に匹敵する「常陸牛」の世界トップブランド化や規模拡大による儲かる経営への転換、②「常陸の輝き」のトップブランド化による「儲かる養豚経営」の実現、③飼料価格高騰や輸入状況に左右されない強い経営体の実現を目指します。
具体的には、最高品質「常陸牛」の生産と輸出拡大および規模拡大に対する支援や、ブランド豚「常陸の輝き」の生産拡大と販売価格向上のための支援、国産飼料への転換と省力化技術の導入支援による経営基盤の強化を推進します。
分野横断的な政策の方向性
有機農業、輸出、加工、地域の特性を活かした農業経営の4つを分野横断的な政策の方向性の柱として位置付け、収益性の高い農業構造の実現を目指します。
具体的には、有機農業と言えば「茨城」というポジションの確立、輸出による新たな販路開拓と海外での茨城ブランドの確立、農産物の加工による茨城ブランドの確立、地域資源を活用した特色ある農業の展開を進めています。
農業ビジョンに関連する主な施策
農業ビジョンの実現に向けて、現在取り組みを進めている主な施策をご紹介します。
(1)園芸に関連する主な施策【産地振興課】
本県を代表する農産物のひとつであるメロンは、全国一の生産量を誇るものの、東京都中央卸売市場の平均単価は全国より低く、作付面積も減少傾向が続いており、所得向上に向けた単価向上が急務となっていました。
そこで、2023年度に新たに「高品質メロン創出事業」を創設し、贈答用や輸出向けのプレミアム商品創出の取り組みを開始しました。初開催した「イバラキングメロンコンテスト」は、TVや新聞等の各種メディアに取り上げられて本県産メロンのイメージアップが図られたうえ、最優秀賞を受賞した生産者のメロンは、都内百貨店で1玉1万円(税別)と過去最高の価格で販売されました(写真1)。
2024年度は、「イバラキング」に加えて「赤肉メロン」も対象としたコンテストの開催や、輸出用メロンの生産強化等の取り組みを実施することにより、引き続き贈答用高級メロンの創出、販路拡大に取り組みます。
また、本県が産出額全国シェア9割以上を占める「ほしいも」は、若い女性を中心に人気が高まっており、他産地でも生産が拡大してきています。産地間競争を勝ち抜き、今後も本県が圧倒的なシェアを維持していくためには、本県産ほしいものブランド化とプロモーション活動に取り組む必要があります。
そこで、県では、ほしいもの美味しさを評価する客観的な品質基準を全国で初めて設定し、基準を満たす商品の中から特に優れた逸品を「ほしいも王国いばらきプレミアム2024」として認定しました。認定された商品は都内の高級百貨店や県アンテナショップIBARAKI sense等において、通常の商品の約3倍となる1kg当たり10,000円(税別)という高値で販売されました。
さらに、1月10日を「ほしいもの日」と制定するとともに、タレントの谷まりあさんを「茨城県ほしいもアンバサダー」に任命するなど、様々な話題性のあるプロモーションを展開しました(写真2)。
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2024年度は、新たに「茨城ほしいもトップランナーグレードアップ事業」創設し、トップブランド化の取り組みをさらに進めるとともに、ほしいもシーズン前からプロモーション活動を展開することにより、「美味しいほしいもと言えば茨城県」のイメージ定着を図り、他産地の追随を許さないトップランナーとしての地位の確立を目指します。
(2)有機農業に関連する主な施策【農業技術課】
農業ビジョンのなかで、分野横断的な政策の1つとして掲げているのが「有機農業による差別化」です。
近年、有機農業は、持続可能で高付加価値な営農手法として国内外で注目を集めています(写真3)。世界の有機農業の取り組み面積は過去15年間で約2.5倍に拡大しており、我が国でも、農林水産省が2021年に策定した「みどりの食料システム戦略」で、2050年までに有機農業に取り組む割合を耕地面積の25%まで拡大するという意欲的な目標を打ち出しています。さらに、有機食品市場は国内外ともに規模拡大が予測されている成長市場であり、大きなトレンドとなりつつあります。
動画はこちら:【CHALLENGE IBARAKI】#63 有機農業~いばらきオーガニック~
本県では、2019年度に「いばらきオーガニックステップアップ事業」を創設し、情勢に応じて支援内容を拡充しながら有機農業の振興に取り組んできました。これまでの事業効果等により、常陸大宮市では、三美(みよし)地区を中心にわずか5年で約30ha規模の有機モデル団地が形成され、毎年取り組み面積が拡大しています。また、2023年度には、常陸太田市に新たな法人の参入が決定し、新たな有機農業の拠点形成と優良事例のさらなる横展開が期待されています(写真4)。
2024年度は、持続可能な儲かる農業の実現に向けて、有機農業の取り組みをより強力に推進します。具体的には、いばらきオーガニックステップアップ事業を拡充し、これまで支援してきた4メニュー(県北地域における有機農業のモデル団地育成支援、地域における有機農業産地づくり支援、有機農産物の供給能力向上支援、生産・需要拡大支援及び有機農業の指導人材育成)に加え、荒廃農地を有機圃場として再生すること等を目指す「荒廃農地等農地集約・環境整備支援事業」と、小売店からのニーズの高い有機果実の栽培や、加工品製造及び販路拡大等の取り組みを支援する「有機農産物新商品開発チャレンジ支援」の新規メニューを追加し、農業者の皆様を強力にサポートしてまいります。
引き続き、関係者一丸となって有機農業の振興に取り組み、有機農業と言えば「茨城」というポジションを他県に先駆けて確立できるよう、いばらきオーガニックステップアップ事業等の支援策により、有機農産物の供給強化と販路拡大を急ピッチで推進します。
(3)畜産に関連する主な施策【畜産課】
常陸牛については、2023年9月から販売を開始した「常陸牛煌」のトップブランド化を目指して、品質の高さや美味しさについて、実際に食べて実感してもらうため、メニューフェアを開催するとともに、広くブランドについて知ってもらえるようメディアを活用したPR活動に取り組みます(写真5・6)。
また、さらなる出荷頭数の拡大を求める声に応えるため、現在は茨城県中央食肉公社のみで認定している「常陸牛煌」を、東京食肉市場でも新たに認定できるよう認定体制の検証を行います。
さらに、「常陸牛煌」となる素牛の生産拡大と「常陸牛」のさらなる品質向上を図るため、オレイン酸や小ザシなどの脂肪の質が遺伝的に優れた雌牛の確保経費を支援するとともに、県畜産センターに遺伝的に極めて優れた雌牛を新たに導入し、将来的には、その牛から採取した受精卵や子牛を県内生産者に供給していくほか、繁殖牛の規模拡大や繁殖肥育一貫経営化に必要となる牛舎整備の支援などを行います。
常陸の輝きについては、料理人や卸売業者の方々から品質の良さについて、高く評価されている一方で、知名度が低い状況にあるため、メディアに取り上げられるような話題性のあるイベントを実施するとともに、指定店を拡大するためのキャンペーンを実施するほか、究極に美味しい豚肉を目指して飼料の給与試験などに取り組みます(写真7)。
また、畜産業において生産費の大部分を占める飼料費が高止まりの状況にあるため、未利用農産物や食品残さの飼料化実証、自給飼料の生産拡大を支援することで、国産飼料の利用拡大を推進していきます。
(4)結びに
県では、農業ビジョンの内容を踏まえ、PDCAに基づき、不断の検証・見直しを行いながら、今後も「儲かる農業」の実現に向けた施策を展開していきます。