茨城県の水田では、主食用米、飼料用米、輸出用米等といった水稲の生産に加えて、麦、ダイズ、高収益作物等、多様な作物の生産が行われています。現在、本県の約7割の水田では、主食用米が栽培されています。
一方で、人口減少や高齢化、食や生活様式の多様化が進む中、主食用米の需要量は、過去10年で見ると年間約10万tの割合で減少しています(図1)。このような中、米価の維持ひいては水田農業経営の安定化には、需要に応じた主食用米生産が重要となります。
こうした背景から、本県水田農業の発展と水田経営の安定化を図るため、関係機関が連携し、中長期的な視点に立って、「水田農業高収益化」を推進しています。
農林水産省「米をめぐる状況について」より
高収益作物導入の目標
県では、おおむね30年後を見据えた本県農業の目指す姿を明らかにし、中長期的な視点に立った課題や政策の方向性を示す「茨城農業の将来ビジョン」(以下 農業ビジョン)を2023年5月に策定しました。
県では、この農業ビジョンに基づき、米から「カンショ」や「レンコン」といった高収益作物への品目転換に取り組んでいます。
高収益作物の導入面積は、2022年の3,800haから、2050年には6,000haへ拡大させる計画であり(図2)、収益性が高い農業構造の実現に取り組んでいます。この面積を達成するためには、「カンショ」や「レンコン」に加えて、新たな栽培品目の導入を図る必要があることから、以下の取り組みを実施しています。
「茨城農業の将来ビジョン」より
具体的な取り組み
県内関係機関で構成する水田農業高収益化推進連絡会議の開催や、県内に高収益作物栽培実証圃を設置し、現地検討会等による情報共有等、水田農業高収益化推進計画に基づく導入・定着を図っています。
●水田農業高収益化推進連絡会議の開催
県では年に3回程度、関係機関が一同に集まり、各地域における高収益作物の導入状況に関する意見交換や、今後の導入計画等について検討を行っています。
2024年5月に開催した会議では、2024年度の推進方針を検討するとともに、高収益作物の作付面積を前年度の4,051haから73ha拡大し、4,124haとする目標値を設定しました。
特に、2024年度は、実需者からの需要が見込まれる「加工用トマト」「加工用バレイショ」「カボチャ」の3品目と、県内で先進的に取り組まれており、水田での栽培に関する知見が豊富にある「レンコン」「カンショ」「子実用トウモロコシ」他13品目の計16品目(表)を重点品目に位置付けて推進しています。
需要が見込める品目 | 加工用トマト、加工用バレイショ、カボチャ |
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県内で取り組みが 進んでいる品目 |
レンコン、カンショ、トマト、タマネギ、バレイショ、ニンジン、レタス、 キャベツ、ハクサイ、枝物(切り枝)、有機農産物、子実用トウモロコシ、 地域特認作物 |
●実証圃の設置
農林事務所と連携して、2024年度は実証圃を県内10か所設置し、現地検討会の開催等による地域への波及拡大に取り組んでいます。
現地検討会は、6~8月に計4回を開催しました(図3)。検討した品目は、加工用バレイショ、加工用トマト、子実用トウモロコシの3品目で、水田における生育状況、機械収穫の実演、播種時期をずらした栽培方法等を検討しました。
時期 | 場所 | 品目 | 内容 |
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6月11日 | 古河市 | 加工用 バレイショ |
生育状況検討 |
7月3日 | 桜川市 | 加工用 バレイショ |
機械収穫実演 |
7月30日 | 那珂市 | 加工用 トマト |
機械収穫実演 |
8月6日 | 境町 | 子実用 トウモロコシ |
6月播種生育検討 |
(左から、加工用バレイショ機械収穫、加工用トマト機械収穫、6月播種子実用トウモロコシ検討)
各現地検討会には、県関係機関の他、地域の生産者、各地域農業再生協議会、集荷団体(全農いばらき等)からの、多くの参加があり、「排水対策として何を行ったか」「機械収穫に必要な作業者の人数と10a当たりの収穫時間はどれくらいか」「畑で栽培した場合と比較して、収量はどの程度か」等、活発な意見交換が行なわれました。
さらに、高収益作物導入推進チラシ(令和6年版)を作成し、現地検討会で配布・説明することにより、各種支援制度を周知しました。
今後は、2025年度に向けて、各品目の収益性等を把握し、品目転換を推進していく予定としています。
●水田農業高収益化推進計画に基づく導入・定着
水田における野菜や果樹等高収益作物への転換等に当たっては、産地の関係者がよく話し合って合意形成を図り、基盤整備や施設・機械の導入等を行いながら取り組むことが重要です。
このため、県では、2020年6月に「茨城県水田農業高収益化推進計画」を策定し、水田における高収益作物や子実用トウモロコシの導入・定着を図っています。
これまでに、7品目(子実用トウモロコシ、ミニトマト、レンコン、カンショ、ネギ、キャベツ、シバ)を推進品目として、11産地(7市)についての関係機関の役割分担、作付面積、収量、販売額等の目標値を設定しています(図4)。
目標達成に向けて、高収益作物導入に関する機運を高めるとともに、作付面積拡大を図るため支援制度の紹介や取り組みの推進に係るチラシを作成・配布し、市町村やJA、農業者向けの説明会等を開催しています。
また、高収益作物の収量および販売額向上に向けては、排水対策や適切な病害防除、優良品種(系統)の導入や土づくり等の技術指導を行っています。
取り組みの成果
2024年6月末現在の本県水田における高収益作物の導入見込みは2023年の4,051haに対し、4,209ha(目標4,124ha)と、158haの面積拡大につながっています。
高収益作物の導入に向けては、交付対象水田見直しへの対応等もありますが、県では、引き続き、実需者からの意向を把握しつつ、生産者の所得向上に向けて、水田における高収益作物導入を推進していきます。