①物質循環と農業
②肥料資源の有限性とリサイクル利用
③養分収支から見た輪作の必要性 ←現在の記事
④土の健康を守る有機物
⑤有機物の分解速度と養分供給量
⑥環境と調和した農業の実現に向けて
のテーマで、6回掲載の予定です。
野菜類に施肥量が多い理由
一般的に野菜類は、普通作物に比べて施肥量が多くなります。
普通作物は生育がほぼ終了した時点で収穫期を迎えるため、この時期は養分の吸収も少なく、土壌中には肥料養分をほとんど必要としません。
これに対して多くの野菜類は、栄養生長期や生殖生長期の養分吸収が最も盛んな時期に収穫期を迎えるため、その生育を支える土壌中には、窒素をはじめとして多量の肥料養分が必要になります。さらに、地力の面からも土壌から放出される養分量がこの時期に多くなるよう土壌は管理されています。
これが普通作物に比べて野菜類の施肥量を多くしている理由です。
このため、野菜類が収穫された跡地には、収穫直前まで生育を支えていた多くの肥料養分が残存します。これらの養分は次作物などに有効に利用されない限り土壌浸透水の発生に伴い溶脱し、地下水をはじめとして環境に負荷を与える要因になります。
輪作による養分の効率的利用
●輪作のもたらす効果
養分循環を考慮した施肥法としては、個々の作物に対する施肥管理ではなく、作物の吸肥特性を加味した農地に対する施肥体系および肥培管理を確立する必要があります。すなわち、輪作体系に基づいて前作作物の残存養分を次作物の基肥として利用する方法や、緑肥作物をクリーニングクロップとして作付け体系の中に組み込み、土壌中の養分を有機化するなどの方法です。
多肥集約栽培が慣行化している野菜栽培では、一定の輪作体系のもとに栽培を行うことが連作障害を回避してより効果的な施肥法となります。輪作は耕地生態系に多様性を持たせ、土壌のもつ種々の機能がリンクした形で高まり、病害虫への抵抗性も付与することになります。
●地域輪作の推進
現在のように産地間競争が激しく、さらに農家経営を考えた場合、輪作の必要性は理解できても実現不可能な状況にあることは否めません。そこで、それぞれの農家が輪作を行うのではなく、地域内における栽培作物の異なる農家や畜産農家との間における地域輪作が考えられます(図)。すなわち、経営の異なる農家間での交換耕作を一つの輪作体系に基づいて地域内でシステムとして管理する方法です。
図 地域輪作の考え方
これにより野菜農家は野菜栽培に専念でき、普通作農家は規模拡大の道がひらけ、畜産農家は畜産廃棄物の局所的な土壌還元が少なくなります。さらに、それぞれの農家は農業機械などの設備も省力できて低コスト栽培が実現します。農地サイドからみると常に栽培作物の異なる農家が耕作することになり、連作障害が起こることも少なくなります。
今後このような地域輪作をシステムとして管理し実践するには、農業改良普及センターをはじめ、地域農業の中心である農協や肥料商の役割が欠かせません。
緑肥作物の積極的利用
輪作体系の導入が困難な地域では土壌残存養分や過剰養分のクリーニングクロップ、カバークロップとして緑肥作物の利用が考えられます。青刈りトウモロコシやソルガムなどの養分吸収量は窒素10〜30kg/10a、リン酸3〜5kg/10a、カリ30〜90kg/10aと多く、この値は年間に肥料養分が地下水まで流出する量をはるかに上まわっています(表)。
これらを堆肥化して利用することがベストではありますが、青刈りすき込みを行う場合でも土壌に蓄積した養分を一旦作物に吸収させて有機化し、それを作土に戻すことにより養分の循環利用が可能になります。
作物名 | 効果※ | C/N比 | 乾物収量 (kg/10a) |
養分吸収量(kg/10a) | 窒素 取込or放出 |
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N | P2O5 | K2O | |||||
レンゲ | 肥 | 15前後 | 300~600 | 7~15 | 1~3 | 5~10 | 放出 |
青刈りトウモロコシ | 物・除 | 35前後 | 800~1400 | 20~30 | 3~5 | 50~90 | 取込 |
イタリアンライグラス | 物 | 20前後 | 400~600 | 10~20 | 1~4 | 20~40 | 放出 |
ソルゴー | 物・徐 | 35前後 | 1000~3000 | 20~30 | 3~5 | 30~70 | 取込 |
ヘイオーツ | 物・セ | 20前後 | 800 | 20 | 3 | 35 | 放出 |
ギニアグラス | 物・セ・除 | 18前後 | 1000 | 20 | 7 | 35 | 放出 |
クロタラリア | セ(ネコブ) | 40前後 | 500 | 10 | 3 | 17 | 取込 |
マリーゴールド | セ(ネグサレ) | 17 | 700 | 19 | – | – | 放出 |
ヘアリーベッチ | 抑 | 18 | 600 | 16 | 5 | 7 | 放出 |
ナギナタガヤ | 抑 | 55 | 900 | 7 | 3 | 12 | 取込 |
効果※)肥:肥料効果、物:物理性改善、除:除塩効果、セ:センチュウ密度抑制、抑:抑草効果
農地を裸地にしない
窒素肥料の利用率(施肥した肥料の当該作物による回収率)は平均すると50%です。降水量の多い我が国では、おのずと土壌浸透水も多くなり、とくに裸地期間は水量、残存養分の溶脱量も多くなります。
肥料養分の環境への負荷を考えた場合、作物を収穫した後、次作物の作付けまでの短い期間であっても緑肥作物などを導入して常に農地を被覆しておくことが肝心です。このことは営農努力によって作られた肥沃な土壌が水食や風食などによって失われないための資源管理技術でもあります。
月刊農業いばらき2022年6月号から再掲載