2020年、NHK「趣味の園芸」で特別企画されたのが「万葉の花」。古の時代から愛されたフジ、ナデシコ、カキツバタなど、種類の選定からたずさわり、自分が解説したい花としては「キキョウ」を選びました。
「万葉集」で、巻八の山上憶良が詠んだ秋の七草に「萩が花、尾花、くず花、なでしこの花、をみなえし また 藤ばかま、朝顔の花」があります。この朝顔は、私たちが思っているヒルガオ科のアサガオではなく、キキョウではないかという説が有力です。万葉集が作られた時、アサガオは日本に渡来していないからです。
私が万葉集の中で紹介したいのは、山野に花咲くキキョウの姿を女性の姿になぞらえた美しい歌です。
「朝顔は 朝露負(お)ひて 咲くといへど夕影にこそ咲きまさりけれ」 巻 10-2104 作者未詳 (朝顔は朝露を受けて咲くというけれども、夕方の光の中でこそ、なお一層その美しいものなのですね)
この歌に出会ってから夕暮れ時にキキョウが咲く姿をじっと観察してみました。日中よりも花の色が濃く見えて、何とも艶っぽい姿に見えるんです。テキストの写真撮影を担当した主人に伝えると、キキョウの開花株を持って七ツ洞公園付近に出かけ、水田と夕日をバックにキキョウを撮影してくれました。風船のように膨らんだ蕾を指で押すと、パンと弾ける音も魅力のキキョウ。栽培は簡単ですからぜひお宅の庭でも咲かせていただきたいです。万葉人の想いを今も伝える花姿の美しさ、夏の夕暮れはキキョウとすごしてみてはいかがでしょう。