地球温暖化等に伴う気候変動の状況下において、局地的大雨の発生件数の増大が予測される中、さらなる水害の激甚化・頻発化が懸念されています。
雨水を田んぼに一時的に貯める
このような状況の中、営農しながら地域の防災・減災に貢献できる「田んぼダム」の取り組みが全国的に注目されています。
田んぼダムは、水田が持つ洪水防止機能を強化する取り組みです。水田の落水口を工夫したり交換することで、より多くの雨水を水田に貯めることができ、排水路や河川への水の流出を遅らせて、取り組みを行っている地域や下流にある住宅等の洪水・湛水被害の軽減を図るものです。水田がダムのように雨水を一時的に貯めることから、こう呼ばれています。
田んぼダムは、排水路や河川等から水田に水を引き入れて貯めるものと誤解されやすいのですが、あくまで水田に降った雨を排水路にゆっくり排水するものです。
水田に多くの雨水を貯める落水口の例として、写真1のように、落水口の塩ビ管をかさ上げし、少しずつ雨水を排出するための穴をあけたものや、写真2のように、桝型の落水口に排出量を抑制するための、小さな穴の開いた流量調整板を設置するものなどがあります。
田んぼダムの効果について、農林水産省が令和4年4月に作成した「田んぼダムの手引き」には、田んぼダムに取り組んでない場合と比べ、1筆当たりの流出量のピークを73%抑制できると記されています(農林水産省農村振興局整備部、2022、田んぼダムの手引き)。その他にも、手引きには、田んぼダムに取り組むことによる、浸水面積や浸水量の変化、営農への影響等が記載されています。
また、栃木県の土地改良区によると田んぼダムに取り組んだことで、治水効果の他に、大雨時の排水路の急激な水位上昇が抑えられ、末端の排水機場の運転時間が減少したと、その効果を実感したとのことです。
設置費用と事業の活用
それでは、田んぼダムに取り組む場合の費用について説明します。メーカーが販売している製品を使った場合、1か所(30a)2.5万円程度で、茨城県の一般的な用水機場掛りである30haで実施すると250万円程度になります。また設置には、手掘りの場合1か所当たり30~40分/人(慣れてきたら)と簡単に取り組むことができます。
しかし、実際に田んぼダムに取り組むには、製品の費用負担や維持管理について地域の合意が不可欠であり、水田の整備状況に応じて、以下のような検討が必要になります。
例えば、基盤整備を計画中もしくはこれから実施する地区は、事業の中で地元での調整や合意を得ることができるため、田んぼダムを検討する絶好の機会になります。さらに、農地の集積・集約を行い、「中心経営体農地集積促進事業」を活用することで、地域負担を極力少なく導入することができます。
一方、整備済み地区においては、畦畔が痩せ、整備直後のように雨水を貯められない水田が多いと思われます。このような場合、「耕作条件改善事業」を活用し、田んぼダムの落水口の整備と合わせて、畦畔補強を実施する方法もあります。
田んぼダムの管理等にも支援事業があり、多面的機能支払交付金を実施している地域では、一定要件を満たした場合、設置した落水口や畦畔等を維持管理する加算措置(400円/10a)が受けられます。
県内の田んぼダムの取り組み状況
県としても、田んぼダムの取り組みを積極的に推進しており、これまでに啓発資料の配布や大学教授による講演会の開催(写真3)、各地域の説明会でPR活動を行ってきました。その効果もあり、令和5年4月末時点で県内において約60haの水田で田んぼダムの取り組みが開始されています(写真4)。田んぼダムの効果は取り組み面積が大きいほど効果を発揮するものです。この記事を読んでいただいて、少しでも田んぼダムに興味を持っていただき、まだ取り組んでいない地域の方は取り組み開始に向けて、すでに取り組んでいる地域の方はさらなる取り組み拡大に向けて、検討していただけましたら幸いです。
自分たちで取り組む治水対策
最後になりますが、田んぼダムはこれまでの河川管理者が行う治水対策とは違い、自分たちで取り組める治水対策です。今後増加するであろう水害に向けて、田んぼダムの取り組みを拡大していき、水害リスクから自分たちの地域を守っていきましょう。